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仙台高等裁判所 昭和22年(ナ)7号 判決

原告

三角久松

外一名

貝塚三次郞

被告

靑森縣選擧管理委員會

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告三角久松、同高橋德三の連帶負擔とする。

請求の趣旨

原告貝塚三次郞―「昭和二二年四月三十日施行の靑森縣上北郡六ケ所村會議員選擧の効力に關し、原告貝塚三次郞がした訴願に對し、靑森縣選擧管理委員會が昭和二二年八月十四日した裁決はこれを取消す。右選擧は全部無効であることを確認する。」

原告三角久松、同高橋德三―「昭和二二年四月三十日施行の靑森縣上北郡六ケ所村會議員選擧の効力に關し、同村貝塚三郞がした訴願に對し、靑森縣選擧管理委員會が昭和二二年八月十四日した裁決は、これを取消す。」

事實 (省略)

理由

原告等は昭和二二年四月三十日施行された靑森縣上北郡六ケ所村會議員選擧に立候補したが、原告貝塚三次郞は落選し、原告三角久松、高橋德三は當選した者であること。貝塚三次郞が同年五月六日同村選擧管理委員會に右選擧の全部無効を理由として異議を申立て、同委員會は同年五月十六日右異議を排斥して選擧の無効でない旨の決定をし、同月十七日その旨貝塚三次郞に告知したこと。貝塚三次郞は右決定を不服として同年六月六日更に靑森縣選擧管理委員會に訴願し、同委員會は同年八月十四日原告等主張のような裁決(昭和二二年五月十六日六ケ所村選擧管理委員會においてした同村貝塚三次郞の同村會議員選擧の効力に關する異議申立に對する決定は、これを取消す。三角久松及び高橋德三の當選はこれを無効とする。)をし、同年八月二十六日貝塚三次郞に對し右裁決書を交付したことは、いずれも被告の認めるところである。(中略)

次に同村大宇倉内木村正五、田中梅太郞、藤島ナミの三名が右選擧においてそれぞれ投票したことは當事者間に爭のないところであるが、原告貝塚三次郞は右投票が選擧の規定に反する無効のものである旨主張し、被告においてはこれを認めるけれども、原告三角久松、高橋德三は右三名の投票が有効のものである旨主張する。そこで右三名の投票の効力について審按するに、木村正五、田中梅太郞、藤島ナミの三名が、昭和一二年十月十日現在調製の衆議院議員選擧人名簿にそれぞれ登録されている者であることは、前記乙第三號證の(イ)によつて認められるが、右の中、木村正五は昭和二一年十月二十一日復員した元軍人であり、田中梅太郞は同年十月七日外地から引掲げて來た者であることは、前記乙第一號證の(ニ)及び當裁判所において成立を認める乙第四號證の(ニ)を綜合してこれを認めることができる。

さすれば右兩名はいずれも補充選擧人名簿に登録されるべきものであつて、右基本の名簿に登録されるべき者でなく、從つて、右基本名簿の登録は誤載であることが明らかである。

然るに、右兩名とも補充選擧人名簿に登録せられず、右基本名簿の登録に基いて前記投票を行つたことは、右乙第一號證の(ニ)により推知できる。かように誤つて登載された右基本の名簿によつて投票しても無効なものといわなければならない。そしてこの點は右兩名が本件選擧について實質上選擧權を有したか否かによつてその結論を異にするものではない。蓋し選擧權の行使は法定の手續により適式に作成せられた選擧人名簿によつてのみこれをなし得るものであつて、假令實質上選擧權を行使し得べき要件を具えていても、適式に選擧人名簿に登載せられなければ、その權利を行使し得ないものと解すべきであるからである。

また當裁判所において成立を認める乙第三號證の(ニ)、前記乙第一號證の(ニ)及び第三號證の(イ)を綜合すると、藤島ナミは昭和二十年十二月二十五日上北郡三澤村宇天ケ森甲地義信と事實上婚姻し、爾來同棲して同所に住所を移轉した者であることが認められるから、同人は村會議員の選擧資格について住所に關する法定の要件を具備する者でなく、右選擧において投票することができないものである。よつて同人が右名簿に登録されていても、その投票は無効なものといわなければならない。

よつて右選擧において有効投票とされたものの中、木村正五、田中梅太郞、高村トシ、藤島ナミの投票した合計四票は無効なものであるが、當裁判所において成立を認める乙第四號證の(イ)によると、當選者中三角久松、高橋德三の得票は各八十票で、その他の當選者の得票は八十二票以上であり、次點者福岡由太郞、目時喜一郞、上野庄助の得票は各七十七票であることが認められるから、假に右四票をそれぞれ當選者の得票から控除すると、三角久松、高橋德三の得票は各七十六票となり、右次點者の得票七十七票に比し一票少くなるため、右兩者の當選に影響を及ぼすこととなるが、他の當選者には影響を及ぼさないこと明らかである。

即ち右四票が無効であることによつて、原告三角久松及び高橋德三の當選は無効となるも、他の當選者には影響がないものといわなければならない。

なほ原告三角久松及び高橋德三主張の(四)の事實中、貝塚三次郞が六ケ所村選擧管理委員會に對する異議申立の事由の外にあらたな事實を追加して、靑森縣選擧管理委員會に訴願したことは、當裁判所において成立を認める乙第四號證の(ロ)の一、二、(ハ)、(ニ)、(ホ)によつてこれを認め得るけれども、右は毫も違法なものでない。右(四)の事實中、その餘の點及び同原告等主張の(三)の點は前記認定に副わない獨自の見解を述べたものに過ぎないから、いずれも採用するに足らないものである。

以上説明の通りであるから、靑森縣選擧管理委員會のした前記裁決は結局正當であつて、原告等の本訴請求はいずれも理由がない。

よつて原告等の本訴請求はいずれもこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負擔につき民事訴訟法第九十五條、第八十九條、第九十三條を適用して、主文の通り判決する。

(谷本 村木 松尾)

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